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アルスはとある民家を訪れた。 「あらアルス、いらっしゃい。ゆっくりしていってね。」 奥さんが、笑顔でアルスを迎えてくれた。 「ありがとうございます。」 「こんな小さな島だから、ほとんどみんな顔見知りで親戚同士みたいなものよね。でも世界にはホントにこの島だけしかないのかしら?何だかちょっと淋しいわね。」 きっと誰もが一度は考えたであろうことを、彼女は口にした。 しかしふと時計を見ると、慌てて言った。 「あっと・・・いけない、いけない。お食事の支度をしなくちゃ!あ、でも気にしないでゆっくりしていってね。」 すると奥から主人が姿を現した。 「やあ、アルスじゃないか!そういえばこの前、お前のおじさんのホンダラがな・・・・・・、うちのカミさんのフロを覗こうとしてそりゃあ大変だったんだぞ。」 「す、すみません。」 「おっと!まだ子供のお前にこんなことを言っても仕方なかったな。すまん、すまん。」 (あれ?これは・・・。) 本棚から何かがひらひらと落ちてきた。 落ちてきた紙切れを拾い上げて見てみると、中身はとんでもない物であった。 ”X月△日 こう書いてあっても、きっと返さないに決まっているのだ。 (本当におじさんには困っちゃうよなあ。) 「何でちゅか?レディーのお化粧を覗くのは失礼でちゅよ!」 アルスがちらっと覗いた部屋では、この家の3歳になる娘が一人前にお化粧をしていた。 「あっ、ごめん。」 ちらっと見た限りでは、ものすごく濃い恐ろしい顔をしていた気がする。 (はははっ。) きっと見よう見真似で本人は頑張ってお化粧したつもりなのだろうが・・・。 「ではそろそろ行きます。さようなら。」 アルスはそそくさとその家を後にした。 次に訪れた民家ではアルスに懐いている猫が、体を摺り寄せてきた。 「ゴロニャ〜ン。」 「こんにちは。」 アルスが入って来たのに気付かないのか、老人が1人でぶつぶつと呟いているのが聴こえた。 「ホンダラに家を貸したのは失敗だったかのう・・・・・・。ボルカノさんの弟さんじゃで、ちょっとはマシな奴かと思ったんじゃがのう。」 2階へ上がって行くと、孫娘が困ったように言った。 「あんまり言いたくないけど、ホンダラさんたらうちの家賃を半年分も溜めてるのよ。本当にだらしない人だけど、お爺様も私も今ひとつ憎めなくてね。でもこのままじゃ、いずれ出て行ってもらわなくちゃならない時が来るかも・・・・・・・。」 「すみません。」 アルスはひたすら謝るしかなかった。 このままではおじさんの評判が悪くなるばかりである。 アルスは思い切ってホンダラの家に向かうことにした。 ホンダラの家の中はあちこち物が散らかっており、酒の瓶も転がっていてものすごい有様だった。 「おじさん、こんにちは。」 「ぐがー、ぐがー!」 ホンダラは高いびきで眠りこけていた。 「おじさん!」 体を揺さぶってみたが、一向に目を覚ます気配がない。 (また後で来てみるか。) アルスはホンダラの家を後にした。 |