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町の中には地下室があったが、鉄の扉で閉ざされていた。 (この中には何があるんだろう?) 知りたいという興味が湧いたが、カギがかかっているので中に入ることはできなかった。 アルスは諦めて外へ出た。 「ウー、わんわん!」 「うわっ、びっくりしたあ。」 いきなり犬に吠えられて驚いたアルスは、思わず1軒の家に飛び込んでしまった。 「お邪魔しまーす。」 (うわあ、ものすごい本だなあ。) その家には本棚があり、難しい本がぎっしりと詰まっていた。 (あれ?地下室がある。) アルスが地下室へ降りて行くと、不機嫌そうな老人がアルスを見て言った。 「何じゃ、お前さんは?人の家に勝手に入って来て何様のつもりじゃ?大方ヘンクツなじじいが住んでいると聞いて、面白半分で見物にでも来たんじゃろう。さあ、ご覧の通りのじじいじゃ。見たからもういいじゃろ。とっとと出て行ってくれ!」 「す、すみませんでした。」 アルスは慌てて家を後にした。 (この井戸って深いなあ。何メートルくらいあるんだろう?) 町の中の井戸を覗き込んでいると、女性が叫ぶ声が聞こえてきた。 「危ないよ!そんなに身を乗り出して覗き込んだりしちゃ。もし落っこちでもしたら大変だから、気を付けておくれよ。」 「すみません。気を付けます。」 (そろそろお城に行かないと駄目かな。) アルスはようやく城へと足を向けた。 「ややっ、これはこれはアルス殿!既に使いの兵からお聞きでしょう。王様がお待ちかねですぞ。城はあの門を抜けた所。ささ、お急ぎ下さい。」 「はい。お待たせしてすみません。」 「グランエスタード城にようこそ!」 アルスが門を抜けようとすると、先程の兵士と同じようなことを言われてしまった。 「ややっ、これはアルス殿!王様がお待ちかねですぞ。」 場内はフィッシュベルの村とは違ってやはり立派な造りであった。 よろず屋も完備され、城内にはヨロイが飾られていた。 ゴールド銀行なんていうものまである。 「愛と信頼のゴールド銀行へようこそ。皆様の大切なお金を魔物などからお守りします。お預かりもお引き出しも1000ゴールド単位で承ります。もちろん手数料などは一切頂きません!どんなご用件でしょう?」 「僕はそんなにお金を持っていないので、結構です。」 「またのご利用をお待ちしています。」 そんなアルスを見つけて声を掛けてきた者があった。 兵士長である。 「おやっ、そなたは確かボルカノ殿の息子さんではなかったかな。おおっ、そうか。王様に呼ばれたのであったな。もうお会いしてきたのかな?」 「いいえ、これからお会いするところです。」 「どんな用事か聞いておらぬが、きっとそなたを信頼しての大事な話であろう。さあ、こんなところでぐずぐずしていないで早く王様の所に行くが良い。」 「はい、それでは・・・。」 壁には盾が飾られており、槍も立てかけられていた。 その前を通っていると、兵士の1人がサイフを見せびらかしているのに出会った。 しかしその話の内容を聞いたアルスは青くなった。 「へへ、ラッキーだったなあ。どうだい、このサイフ。イカしてるだろ。何と、持ってるだけでどんどんお金がたまるという不思議なサイフらしいんだ。それをたったの300ゴールドでホンダラって人が譲ってくれたんだぜ。全く欲の無い人だよなあ。あのホンダラって人は・・・。」 (まさか・・・。あのおじさんがそんなサイフを持っているわけがない。きっとあれはただのサイフだ。本当に何て人なんだ。) アルスはいたたまれなくなって、城の裏へと逃げ出してしまった。 しかしそこにも兵士が立っており、こそこそとアルスに耳打ちした。 「ここだけの話ですが、実はキーファ王子はお城の宝物庫をひっくり返していたかと思うと・・・、古文書のような物を手にして、今度は城中を走り回っていたんです。宝探しごっこでもやっているんですかね。」 「さ、さあ。僕にはよく分かりません。」 そう言ってアルスが城内に戻ると、2階へ向かう階段下で兵士に呼び止められた。 「むむむっ!何ヤツ!?」 「フィッシュベルのアルスです。王様に呼ばれて参りました。」 「我が王に呼ばれたと申すか?」 「はい。」 「嘘をつけっ!お前のような者が呼ばれたなど聞いておらぬぞっ!とか1回でいいから言ってみたいものですね。ささ、どうぞ、お通り下さい。」 「ははっ。」 冗談の好きな兵士である。 アルスとも顔見知りであった。 しかし反対側に立っている兵士は何と、いびきをかいていた。 「ぐうぐう・・・・・・。」 (まあ、平和な証拠だよな。) そう思いつつ、アルスは宴卓の間の前を通りかかった。 「この奥は宴卓の間。王家の人々が食事をなされる部屋でもある。しかし今は王は上の階におわす。そちらに急ぐが宜しかろう。」 その言葉に従い、アルスは2階への階段を上っていった。 |