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「キーファ!キーファ王子はまだ見つからんのかっ!?」

バーンズ王が叫びながら階段を降りて来た。

「むむむむっ!あの大バカ者め。今度という今度は許さんぞ!」

王の後を追って、大臣が慌てて降りて来る。

「お、王様!ここはひとつ私に免じて。キーファ様もきっと何かお考えあってのこと。どうかお気を静められますよう。」

「ええい、何もそなたが庇わんでも良い!」

そう言って怒鳴った王の視界の片隅に、アルスの姿が飛び込んできた。

「ん?アルス!いつからそこにいたのじゃ?待ちかねておったぞ!」

「遅くなって申し訳ありません。」

「まあ良い。ささっ、こっちじゃ。」

王に促されてアルスは3階の王座の間へと連れて行かれた。

「とにかくそこに座るが良い!」

勧められるままにアルスが椅子に腰掛けると、王はアルスの前へとやって来て言った。

「アルスよ、わしの目をしっかりと見るのじゃ。良いかな?」

「はい。」

「ズバリ聞くぞ!アルスよ。このわしに何か隠しておろう!」

「いいえ。」

いきなりの質問にアルスは一瞬ドキッとしたが、平静をよそおってこう答えた。

「アルスよ、とぼけてもムダじゃ。わしの目は節穴ではない。近頃のキーファはまるで何かに取り付かれたように落ち着かぬ様子であったが・・・・・・。今日はとうとうあの大バカ者は、大事な妃の形見の指輪を持ち出しおった!一体あのバカは何を考えているのか・・・・・・。なあアルスよ。お願いじゃ。そなたからもキーファに言ってくれぬか。いつまでもフラフラと遊んでばかりおらんで、少しは王子らしくしてくれとな。わしも若い頃は無茶をしたが、今のキーファの年頃にはしっかりしておったぞ。」

そう言ってから一息つき、王は言葉を続けた。

「ん?何やら言い訳くさくなってしまったな。まあ良い。ともかくそういうことじゃ。」

「はい。」

王が玉座に腰を下ろすと、アルスは立ち上がった。

「王様は誰よりもキーファ王子のことを思っていらっしゃる。アルス殿。わしからもお願い致します。王子のこと、頼みますぞ!」

大臣が言葉を続けた。

「はい。」

「アルスよ、ご苦労であったな。そなたにはもっと色々と聞くつもりであったがもう良い・・・・・・。ともかく!キーファのこと、頼んだぞ。わしはあいつを信じておる。そしてアルス、そなたのこともな。」

「はい。」

バーンズ王の息子を心配する気持ちは痛いほど伝わってきていたが、あのことをしゃべることはできなかった。

親友でもあるキーファ王子との2人だけの秘密を。

王の元から下がったアルスに、兵士が話し掛けてきた。

「お妃様の形見の指輪といえば、確か太陽石という珍しい宝石のついた指輪・・・・・・。まあ今度ばかりは、王様もたまりかねたご様子でした。」

兵士達も心配なのであろう。

「キーファ王子は今日も朝からどこかに出掛けられました。困ったものです。」

そう言う兵士の言葉を耳に残しつつ、アルスは2階への階段を降りて行った。

城には立派なヨロイが飾られていた。

そのヨロイを眺めていると、兵士がこう言うのが聞こえた。

「いやあ、あんなに王様が興奮なさったのは初めてです。びっくりしましたよ。」

確かに普段温厚な印象のバーンズ王が声を荒げたのをアルスは聞いたことがなかった。

王は心からキーファの行く末を心配している。

そして周りの者達も、最近の王とキーファのぎくしゃくとした関係に不安をおぼえていた。

しかし、そんなことは眼中にないという不謹慎な者もいたのである。

「お妃様が亡くなられてもう10年も経つというのに、王様は今もお1人。ああ・・・・・・。私の気持ちにいつ気付いて下さるのでしょう。」

と、こんなことを考えている女性もいた。

アルスがキーファの部屋に足を向けると、アルスとも顔馴染みの王子の世話係の侍女がアルスに話し掛けてきた。

「王子様のお世話をして丁度2年。今年で王子様も18になるわ。気のせいか、近頃お部屋の中が男臭くなってきたような気がするのよね。あら?そういえば王子様はご一緒じゃなかったの?アルスさんの所へ行かれたんだとばかり思ってたわ。」

「いえ、今日は王様に呼ばれて来たので。」

「そう。じゃあ王子様はどちらへお出掛けになられたんでしょう?」

キーファの行方はアルスにも分からなかった。

(もしかしてあそこへ行ったんだろうか?)

キーファの行動力にはアルスも一目置いている程で、きっとアルスの知らない時にも彼は兵士達の目を盗んであちこちに出掛けているに違いないのだ。

(バルコニーから外を眺めたらキーファが見つかるかな?)

そう思ってアルスは扉を開けるとバルコニーへ出てみた。

バルコニーでは兵士が見張りに立っていたが、皆のんびりとしたものであった。

「異常なーし!全くこの国は平和だよな。これで給料もらってちゃ、悪いような気がするよ。」

更に高い所へ行こうと、アルスは3階のバルコニーへの階段を登って行った。

すると1人の女性がアルスを見かけると話し掛けてきた。

「あら、あなたは確か・・・キーファ王子のご友人のアルスさんだわよね。王子ったら、朝早くからドタドタと何かを探して走り回っていたのよ。探し物は見つかったのかしらね?」

「いや〜、平和だなあ。これもキーファ王子のお父上、バーンズ王のお陰ですね。」

男性がのんびりとくつろいでいる。

「ん?今、海の彼方で何かが光ったような・・・・・・。しかし、海の向こうにも海しかないし・・・。きっと、光の加減で見えただけだろう。」

そう言う男性の言葉につられてアルスは海の方を見てみたが、やはり海は普段と変わらない様子だった。

しばらく辺りを見回してみたが、やはりキーファの姿は見えなかった。

アルスは諦めて、扉を開けると室内へと戻って行った。

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