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部屋には本棚があり、難しそうな本がぎっしりと詰まっていた。 いかにもこの部屋に相応しそうな学者風の男性が言った。 「その昔、この島の東は禁断の地とされてたらしいな。東の深き森の中には、何やら遺跡のような物が今でも残っているそうだが・・・。遺跡は禁断の地とされてた頃の代々の王家の墓じゃったと言われておる。というわけでな、あそこらにはあまり近付くでないぞ。」 「は、はい。」 「死者達が安らかに眠る場所を荒らすなど、この島に住む人のやることではないだろうからな。」 次に別の部屋へと入って行くと、老人がアルスの姿を見て言った。 「お若いの。そなた、占いなど信じるかな?」 「えーっと、少しだけ。」 「ではひとつ、このじじいが占ってしんぜよう。こほん・・・・・・。」 アルスが緊張の面持ちで待っていると、老人は怪しげな掛け声だか呪文だか分からないものを、甲高い声で叫び始めた。 「うりゃ!はりゃ!まかやー!ぷーぷるぱぱらやー!はがっ!」 アルスがあっけに取られていると、やがて老人はアルスをじっと見つめるようにして言った。 「おおっ、見えたぞ、見えたぞ。そなたはやがてこの世界を平和に導くのじゃ!」 しかし老人ははっとしたように言葉を続けた。 「・・・・・・!?何を言っとるんだわしは。世界はこんなに平和ではないか。とほほ・・・・・・。どうやらわしの占いも老いぼれてしまったようじゃな。」 「どうも・・・ありがとうございました。」 やっぱり占いは信じるものではないなと密かに思いながら、アルスは部屋を後にした。 階下へ降りて行くと、カギがかかっている扉があった。 「いくらグランエスタードが開かれた城とはいえ、ここは客人の来る所ではないのだ。例えアルス殿が、王子の友人でもな。」 兵士にそう言われて、追い返されてしまった。 アルスは更に1階へと降りて行った。 「ここは王様のお部屋です。王様はおられませぬが、キーファ王子の妹君のリーサ姫がおられます。どうかそそうのありませぬように。」 部屋には立派な家具が置かれていた。 タンスには恐らく、立派な服が沢山掛けられているのだろう。 兵士からは注意を受けたが、キーファの親友であるアルスは妹姫のリーサとも顔馴染みであった。 バルコニーへ向かうと、リーサ姫が外を眺めていた。 アルスに気付くと、彼女は話し掛けてきた。 「まあ、アルス。お父様に呼ばれたのですって?ごめんなさい。お父様はお兄様と一番親しいあなたからお話を聞きたかったのね、きっと。ところでねえアルス、あなたは信じる?世界はこの大陸以外、海ばかりだってこと。お兄様は信じたくないのよ。この広い世界に、国も大陸もたった1つだけなんて。私も同じだわ。どこか他にも知らない国があって、知らない人達が暮らしている。そう考えた方が、夢があって楽しいと思わない?ねっ!」 「そうですね。」 「そうなのよ。お兄様は今、夢を探しているの。だからアルス。あなたもお兄様と一緒に、素敵な夢を探し当ててね。」 そしてわずかに考え込むような表情を見せて、リーサ姫は言葉を続けた。 「そういえばお兄様、アルスに会いに行くって言っていたような・・・・・・。どこかですれ違いになったのかしら。」 「そうですね、もしかしたらすれ違いになったのかもしれません。僕も探してみます。」 「そう。アルス、お兄様をお願いね。」 「はい、リーサ姫。」 彼女と別れたアルスは、屋上から外を眺めてみることにした。 もしかしたら、キーファ王子が見つかるかもしれない。 屋上には他にも2人の人間がいた。 「朝早く、南東の沖から大きな船が出て行くのが見えたんだ。あれはきっとフィッシュベルの、アミット漁に違いない。いやあ、初めて見たがなかなか壮観な眺めだったぞ。」 きっと新米の兵士なのだろう。 そしてもう1人、男性がいた。 「物語の中には魔物などという怪しげな怪物達が出てきますが、一体誰が考えたのか・・・・・・。そんな怪物などというものが本当にいるのなら、この目で見てみたいものですよ。」 辺りを見回してみたが、やはりキーファの姿は見えなかった。 (もう村の方へ行ってしまったのかな?) アルスは一旦、村へと戻ることにした。 グランエスタード城には一般の人間の出入りも多い。 アルスが城門の外へ出ようとすると、すれ違うように商人らしき男性が城門へ向かうのが見えた。 「グランエスタード城は全ての国民に開かれた城です。どうぞ、お通り下さい。」 そう言う兵士の声を聞きながら、アルスは城を後にした。 グランエスタードの城下町を歩いていると、兵士が声を掛けてきた。 「やや、アルス殿!もうお帰りですか?どうかお気を付けて。」 「ありがとうございます。」 フィッシュベルへと向かう途中、先程の家を覗いてみるとやはり動物達が集まっていた。 「よしよし。今日もみんな元気だな。仲良くするんだぞ。」 しかしアルスの気配を感じて、動物達はあっという間にどこかへ去って行ってしまった。 「やっぱり慣れない人間が来ると、み〜んな逃げちまうだなや。な〜に、気にするなって。別に嫌われてるわけじゃなくって、あいつらが用心深いだけさね。いつでも気兼ねなく遊びに来て構わないからな。わっはっは!」 男性の豪快な笑い声を後に、アルスは村へと足を向けた。 |