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「ここは漁師の村、フィッシュベルよ。・・・て、なーんだ、アルスじゃないの。どこに行ってたの?」

村へ戻ると、サーラが話し掛けてきた。

「何かグランエスタード城のキーファ王子が、あなたのこと捜しているみたいよ。」

「僕も捜しているんだけど。」

「あら、じゃあ行き違いになったのかしらね?」

「ちょっと教会へ行ってシスターに聞いてみるよ。」

「じゃあね、アルス。」

アルスはサーラと別れると、教会へ向かった。

「あの、キーファ王子を見かけませんでしたか?」

「先程何か包みを抱えて北の方に走って行く、王子の姿をお見かけしました。目がすごくキラキラと輝いていて・・・・・・。今まで王子があの顔をすると、大抵ロクなことになりませんでしたわ。今度は一体何を・・・・・・。ああ、神様・・・・・・。」

シスターはそう言って神に祈り始めた。

教会では老夫婦が祈りを捧げていたが、アルスを見かけると孫でも見るような表情で話し掛けてきた。

「わたしゃこうして毎日、漁に出た男達の無事を祈っておるんじゃ。海はキケンな所なんじゃよ。何が起きても、うちの息子は守ってもらわないかんからのう。」

「若者達が漁に出とる間は、この村も寂しくなるのう。」

「息子さん、無事に戻って来るといいですね。」

「ありがとう。」

そう言って老婆は嬉しそうに微笑んだ。

教会の中でくつろいでいる猫を見つけたアルスは、喉を撫でてやった。

「ゴロゴロ・・・・・・。」

猫は気持ち良さそうに喉を鳴らした。

これからどうしよう、とアルスは考えた末に、一度家に戻って母親に言ってから出掛けることにした。

その前によろず屋を覗く。

「あら、アルスいらっしゃい。今この村にいる男手は、うちの人とアルスくらいなんだからね。何かあった時は頼むよ。頼りにしてるからね!」

よろず屋の奥さんが気さくに話し掛けてくる。

「ニャオ!」

飼い猫も、そうだと言うように鳴いた。

「お邪魔しまーす。」

カウンターの裏には何があるのだろうか?

気になったアルスは、カウンターの裏へと回ってみた。

「やあ、アルス、いらっしゃい。どうしたい、裏に回ったりして。掘り出し物でも探してるのか?」

主人が尋ねた。

「何かいい物がありますか?」

「悪いな、別にこれといった物はないよ。」

「そうですか。また来ます。」

アルスが店を出ようとすると、店の中でうろうろしていた少年が呟いた。

「漁師の父ちゃん達、遅いなあ。早く帰って来ないかなあ。きっとお魚が沢山いて、取るの大変なんだろうなあ。」

「うにゃ〜ん。」

側にいた猫も同意するように寂しそうな声を出した。

家に戻る前に隣りの家へと顔を出すと、奥さんが忙しそうに働いていた。

「忙しい、忙しい。旦那達が漁に出てる間も、女達にはやることが一杯!家を守らなきゃいけないし、こうやって漁の道具の手入れもしなきゃならないの。」

「頑張って下さいね。」

アルスはそう声を掛けると、家へと戻って行った。

「おや、お帰りアルス。お城では失礼がなかっただろうね?」

「大丈夫だったと思うけど。」

「そうかい・・・・・・。いくら王子と仲が良いと言っても、ケジメだけはつけないとね。ああ、そういえばさっき、キーファ王子がお前を訪ねて来たんだよ。あの様子じゃ、お前がお城に呼ばれたことを知らなかったみたいだね。まだその辺にいるかもしれないから、捜しておやり。」

「うん。ちょうど捜しているところだったんだ。ありがとう、母さん。じゃあ行って来るよ。」

「気を付けてお行き。」

「はーい。」

アルスはまず港へと行ってみることにした。

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