1227年 ギュスターヴ追放

ギュスターヴ12世、ソフィー、ギュスターヴ、フィリップ、マリーの王族5人が描かれた大きな肖像画が掛けられている立派な城。

宮廷では皆、忙しそうに働いていた。

それもそのはず。

今日は第1王子ギュスターヴが、ファイアブランドの儀式に臨む日であった。

儀式とパーティーの準備で城は朝からごった返していた。

ユジーヌ家先祖伝来のクヴェル、ファイアブランド。

その名のとおり火のアニマに感応する。

王子は7才になると、このクヴェルに触れる儀式を行い、ファイアブランドと王家を受け継ぐ資格を示すのである。

ギュスターヴ12世に続いて、7才の誕生日を迎えた第1王子ギュスターヴが儀式の間へとやって来ていた。

王であるギュスターヴ12世がファイアブランドを高く掲げると、ファイアブランドが赤い光を放った。

そして再び、ファイアブランドを元の場所に収めた。

続いて第1王子が父王と同じようにファイアブランドを高く掲げた。

しかしファイアブランドが光を放つことはなかった。

「どうした!集中しろ!剣にアニマを込めるのだ!」

しかしファイアブランドは輝きのかけらも見せようとはしなかった。

「何ということだ!!」

ギュスターヴ12世はひどくがっかりした様子で、王子を残したままその場を立ち去って行った。

王妃ソフィーの部屋で、ギュスターヴ12世が妻に向かって言った。

「あれは私たちの子ではない。お前もあれのことは忘れろ。」

「あれとはギュスターヴのことですか?あんなに可愛がっていらしたのに。儀式がうまく行かなかっただけではありませんか。」

「だけ、だと?ファイアブランドに触れてもアニマが引き出されなかったのだぞ。そこらの草木や石ころにさえアニマがあるのだ。あれは石ころ以下だ。私もあれには期待していた。だからこそ裏切られた気持ちなのだ。許せんのだ。王家の者にアニマが無いなどとは、そんなことが許されようか。あれは追放する。」

「アニマの力が無くとも、ギュスターヴは生きています。私に宿り、私が育み、私が産み、私が乳を与え、私が育ててきました。
あなたにとっては王家を継がすためだけの存在でしょうが、私にとっては命を分け合った大事な息子です。捨てることは出来ません。」

すると王は冷たく言い放った。

「ならば、石ころともどもここを去れ!」

城門の出口付近に、母と子が2人きりで立っていた。

「さあ、行きましょう。」

母親に呼ばれたギュスターヴは、ソフィーの元へと歩いて行った。

ソフィーは最後に城を振り返ると、無言で頭を下げた。

ギュスターヴの弟、第2王子の部屋ではフィリップがたった1人取り残されていた。

「お母様〜。」

何故突然母親がいなくなってしまったのかが理解できずに、彼はただ泣くことしかできなかった。

ソフィーとギュスターヴが歩いていると、街のどこかからギュスターヴを罵る声が聞こえてきた。

「この出来損ない!!」

仮にも王子であった者に対して何と言う物言いであろうか。

しかし2人は無言で街を通り過ぎて行った。

貧民街へと辿り着いた母子は、とある民家へと入って行った。

ベッドが2つにわずかばかりの家具が置いてあるだけの小さな部屋である。

壁にはゴキブリらしき生き物が這い回っていた。

ギュスターヴは構わずベッドに飛び乗った。

「ここではこの家が一番でして。申し訳ございません、王妃様。」

老人がソフィーに向かって申し訳なさそうに言った。

「いいのよ。ありがとう。」

老人はペコリと頭を下げると、部屋を出て行った。

「これからどうしたら良いのでしょう・・・・・・。」

これまでの豪奢な暮らしとは180度異なる様子に、ソフィーは思わずため息をついた。

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