1227年 故郷を離れて 王宮内、謁見の間。 「今日はここまでにしよう。」 ギュスターヴ12世の一言で召使い達が退室すると、1人の男性が入って来た。 「陛下、宜しいでしょうか?」 「シルマール先生か。何かご用ですかな?」 「若様があのような事になるとは、これも家庭教師であった私の責任。ここに留まるわけには参りません。城を離れることをお許しください。」 「宜しいでしょう。四年間、ご苦労様でした。」 ギュスターヴ12世は淡々と言った。 しかしシルマールが退室しようとすると、背後から声を掛けた。 「先生、最後にお聞きしたい。」 シルマールは振り返り、王の言葉を待った。 「なぜあれにアニマが無いと教えてくれなかったのですか?」 「私にも分からなかったのです。彼には強いアニマがあると感じたのですが・・・・・・。王家にこのような人物が現れる事に、何か運命的な物も感じます。」 そう言い残して、シルマールは王の元を去って行った。 「運命か・・・・・・。私は普通に王位を継いでくれる息子が欲しかったよ。」 後に残された王はたった一言、そう呟いた。 ギュスターヴとソフィーは貧民街で暮らしていた。 「お母様、こんな所は嫌です。」 「仕方ないのよ、ギュスターヴ。ノールへ帰れれば良いのですが、それは陛下がお許しにならないでしょうし。ここではあなたがあまりにかわいそうなのだけれど・・・・・・。」 ソフィーが悲しそうな顔を見せた。 そこへシルマールがやって来た。 「王妃様、若様。」 「先生!」 ギュスターヴが嬉しそうな表情を見せる。 「シルマール様!どうしてここへ?」 ソフィーが不思議そうに尋ねると、シルマールは言った。 「陛下から城を離れる許しを頂きまして、これからグリューゲルへ帰るのです。そこで、お二人を御連れしようと思い、やって参りました。」 「しかし、陛下がお許しになるとは思えません・・・・・・。」 「ここで待っていても、陛下は若様をお許しにはならないでしょう。それどころか・・・・・・。」 シルマールがこっそりと耳打ちすると、ソフィーは信じられないという表情を見せた。 「まさか!そんな・・・・・・。」 動揺するソフィーに、シルマールは優しく声を掛けた。 「グリューゲルでナのスイ王に保護を求めると良いでしょう。」 「分かりました。ギュスターヴのことは先生に御任せして参りました。お言葉に従います。」 ソフィーは、唯一信頼できるシルマールの言葉に従う決心をした。 夜の帳が辺りを包むと、シルマール、ギュスターヴ、ソフィーの3人はそっと家を出た。 しかし船に乗り込んだところで、兵士が慌てたようにやって来た。 「その船、止まれ!!」 兵士の制止の声を無視し、シルマールはを使って兵士を眠らせた。 船はどんどん城から離れて行く。 そしてギュスターヴが再びこの城を見るまでに、20年の時が流れることになるのであった。 |