1232年 ギュスターヴ12才

グリューゲル。

南大陸、ナ国の首都。

ここに移り住んだギュスターヴ母子は、ナのスイ王から屋敷を与えられた。

それから5年。

ギュスターヴはすっかり乱暴な子供として有名になっていた。

術不能者であり、追放された者であるという事実は、年を追い、成長を重ねるに従い、彼の心をねじ曲げていった。

東大陸の王族という特殊な生い立ちは、同年代の少年少女達を彼から遠ざけ、最も大切な友人という存在を彼から奪った。

そんな彼にも一人だけ手下がいた。

名をフリンと言う。

フリンはギュスターヴの乱暴にもじっと耐え彼の側を離れなかった。

なぜなら、彼も術が使えなかったのだ。

美しい声で、小鳥がさえずっている。

しかしギュスターヴは花壇の花を踏み荒らし、小鳥に石を投げつけて追い払ってしまった。

「フリン、お前もやれよ!」

ギュスターヴがフリンに命令した時である。

母親のソフィーが姿を現すと、息子をたしなめた。

「何をしているのですか!抵抗できない弱い者をいじめるなど、恥ずべきことです。」

するとギュスターヴは開き直ったように言った。

「どうせ僕なんか、術もアニマも無い、人間のクズなんだ!」

パンッ!

途端にギュスターヴの頬を打つ音が響いた。

「ギュスターヴ、見なさい!木々が花を咲かせるのは術の力ですか?」

ソフィーの言葉に答えるように、小鳥がさえずりながら飛んで来た。

「鳥が空を飛べるのは、術が使えるからですか?術が使えなくても、あなたは人間なの。人間なのよ、ギュスターヴ!」

ソフィーはそう言うと、悲しそうな表情を見せた。

そしてそのまま家へと入って行ってしまった。

残されたギュスターヴはフリンに怒りをぶつけた。

「ああー、いらいらする。大体、お前が悪いんだぞ。母上が来たなら来たって言えよ。」

そこへ2人の少女が通りかかった。

「げっ、ギュスターヴよ。知らんぷりして通り過ぎましょう、レスリー。」

少女の1人はそう言ってそのままそこを通り過ぎようとしたが、レスリーと呼ばれたもう1人の少女は躊躇することなく、ギュスターヴとフリンとの間に割って入った。

「あなた、いい加減にしなさいよ!!」

邪魔されたギュスターヴは、レスリーに向かって拳を振り上げると抗議の言葉を口にしようとした。

「なにを!」

しかしレスリーは物悲しそうな顔でただ一言、こう言った。

「泣いてるの、ギュスターヴ?」

いたたまれなくなったのか、ギュスターヴはそのまま走り去って行ってしまった。

残されたレスリーは、フリンに向かって言った。

「あなたもしっかりしなさいよ。だいたい、何であんな奴に引っ付いてるのよ?」

「ボク術が使えないから・・・・・・。ギュス様恐いけど、ギュス様だけなんだ、ボクのこと解ってくれるの・・・・・・。」

俯きながらフリンはそう答えた。

「ギュス様!!」

突然そう叫ぶと、フリンもまたギュスターヴの後を追って走り去った。

「術が使えないって、そんなに辛い事なのかな・・・・・・。」

レスリーはポツリと呟いた。

1人でポツンと海を眺めながら座っているギュスターヴの元へ、フリンがやって来た。

「ギュス様、あけびを取ってきたよ。」

しかしギュスターヴは答えようとしなかった。

「どうしたのギュス様?大丈夫だよ、誰にも見られなかったから。食べよう、ギュス様。」

フリンはいつものギュスターヴに戻ってもらおうと、必死だった。

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