1233年 ギュスターヴと鍛冶屋

ギュスターヴが13才になると、ナのスイ王はヤーデ付近に名目上の領地を与えた。

その機会に、ソフィーはギュスターヴを連れてヤーデへ移った。

ギュスターヴがスイ王の家臣として扱われるのを避けたためとも、しつこく言い寄るスイ王から離れる口実にしたとも言われている。

ギュスターヴが家から出て来ると、いつものように老婆が彼に挨拶をする。

「はい、こんにちは。」

すぐ側では1人の少年が、何かを探すようにキョロキョロと地面を見回していた。

「大事な宝物を落としちゃったんだ。」

ギュスターヴを見つけた少年は、困ったように言った。

だがギュスターヴは怒ったような表情で言い放った。

「男なら前を向け!」

「うん、そうだね!いつまでも悩んでても仕方ないもんね。ありがとう、お礼にいいものあげるよ。ボクの家の引き出しを調べてみて。」

少年はギュスターヴに礼を述べた。

少年に言われた通り家の中へ入って行くと、引き出しを開けてみた。

「この引き出しかな?何だこれ?ポケットステーションとかいう物を持っていないと役に立たない?意味がないじゃないか!」

ギュスターヴは腹を立てながら少年の家を後にした。

酒場の前で立ち止まると、ギュスターヴを見た女性が言った。

「お酒は大人になってからですよ。」

しかしギュスターヴは構わずに酒場へ入って行った。

酒場の入り口には次のように書かれた看板が掲げられていた。

ワイン祭り銀賞受賞作
ヤーデロイヤル
近日入荷予定

ギュスターヴが椅子に腰掛けると、主人が声を掛けてきた。

「ご注文は?」

「ランチを。」

隣りのテーブルでは、食事の終わった男性が椅子に寄りかかりながら息を吐いた。

「ふぅ、もう腹がいっぱいだ。」

ギュスターヴもさっさと食事を済ませ、酒場を後にした。

次に向かったのは、馴染みの場所だった。

「坊っちゃん、いらっしゃい。良く来ますね。鍛冶屋がそんなに面白いっすか?」

鍛冶屋の親方は笑顔でギュスターヴを出迎えた。

「うん。テルムには無かったし、グリューゲルでもあんまり見かけなかったから。こんなに近くで見るのは初めてだよ。」

「まるで見世物小屋みたいな言い方だなー。」

「何を作ってるの?

「鋼のナイフですよ。あっしはちょっと切るだけなら、鋼のナイフの方が便利なもんでね。術を使わないで済みますから。うちのかかあなんかは石包丁を使う術が得意なんで、鉄の刃物なんか使いませんがね。」

「鋼で剣が作れるかな、親方?」

ギュスターヴは疑問を口にしてみた。

「そいつは難しいな、坊っちゃん。大昔の鍛冶屋は剣なんかも鍛えていたらしいですがね。あっしは包丁程度が関の山で。大体、兵隊なんかも石剣か木刀しか使いませんからね。」

「俺に、教えてくれよ。鋼の剣を作ってみたいんだ。」

ギュスターヴは身を乗り出すようにして頼み込んでいた。

今まで他人に真剣に何かを頼み込んだことなどなかった。

彼の様子を見て親方は頷いた。

「あっしは構いませんが、やるからには真剣にやって頂きますよ。あっしが先生で、ギュスターヴ様は生徒。厳しくやりますが、ようござんすね?」

「うん。」

「返事が悪い!」

「はい!」

ギュスターヴは少年らしい笑顔を見せた。

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