海上都市サラバンドには人々が溢れかえっていた。
立ち話をしている人々の声が賑やかに町を彩る。
花屋では異教の僧風の人物が花を買っている。
花屋から立ち去った人物は何故かサラバンド兵へと姿を変えると、とある屋敷の前へとやって来た。屋敷の中庭では1人のエルフの少女が、窓から屋敷の中を覗こうとしていた。
しかし背伸びをしても、少女の背丈では窓の高さには届かなかった。
「!」
ふと近くを見回すと丁度良い高さの箱を見つけた少女は、箱を窓の下へと運んだ。
箱の上に登った少女が再び窓を覗き込もうとしたその時・・・。
突然窓が閉まってしまい、驚いた少女はその勢いで尻餅をついてしまった。
「いった〜。」
諦めた少女は屋敷の入口へと向かった。
入口の前にはキャントール族の少女が彼女を待っていた。
屋敷の中へと足を踏み入れる2人。
その頃、少女が覗こうとしていた部屋の中では地を揺るがすような大きな怒鳴り声が響いていた。
「聞いているのか、ダンタレス!」
まるで雷が鳴ったかのような大音声である。
怒鳴られている当のダンタレスは窓の方を向いて震えていたが、慌てて飛び上がると急いで声の主を振り返った。
すると声の主を咎めるようにブライバブルが言った。
「荒れているな、ティラニィ。帝国との話し合いが進まないからと人に当たるのは見苦しいものだぞ。」
するとエキュアルがティラニィを庇うように口を挟んだ。
「いや、ティラニィだけを責められない。まるでヤツらにその気がないのだから、当事者のティラニィが面白いわけがない。
ブライバブルが再び反論する。
「だが帝国がバーランドに侵攻したのも、元はと言えばバーランドの内乱が原因だ。領主のお前がまず反省すべきであろう?」
ティラニィとてそのことは充分承知していた。
「分かっているとも、ブライバブル・・・。帝国軍に聖地守護の大義名分を与え、侵攻を許した責任は・・・感じている。」
そこで初めて、先程怒鳴られていたケンタウロス族のダンタレスが言葉を発した。
「ですが、聖地エルベセムへの玄関口であるバーランドは軍事上の重要拠点でもあります。内乱がなかったとしても、いずれ帝国は・・・。」
エキュアルが彼の意見に同意する。
「その通りだよ、ダンタレス・・・。あそこを誰が統治していようが・・・エゴ振り回す愚かな民衆のある限り、帝国の侵攻は止められなかっただろう。」
ブライバブルも頷く。
「帝国と別れて歴史の浅い我が共和国には、共和の意味を理解せぬ者が多過ぎるのだ。そこを帝国につけ込まれたと言うわけだ。」
ティラニィが怒りを込めた口調で言った。
「我々がこれだけ苦労しているのに・・・それを茶化すようなヤツらがいるのも全く・・・我慢できかねることだ。」
その意見にブライバブルが首をかしげる。
「茶化すようなヤツらと言うと・・・?」
「どうしたブライバブル・・・忘れたのか。バリアント将軍の言っていたヤツらだよ。」
「忘れては・・・いない。しかし・・・ここでそれを持ち出さんでも・・・。」
その時、扉の外から別の声が聞こえてきた。
「その話、私にも聞かせてくれ。」
扉が開かれると、1人の人間が入って来た。
共和国代表国王、ベネトレイムその人である。 |