「お客さん、これから遠出されるなら当店の旅の道具はいかがでしょう。どうぞゆっくり見てって下さい。」
「そうねえ、掘り出し物なんてないかしら?」
マスキュリンが尋ねると、店員は残念そうにこう答えた。
「掘り出し物をお探しですか?仕入れが遅れているものですから、また今度覗いてみて下さい。」
「なーんだ、残念!」
「良かったら、もっと見てって下さい。」
「そうですね、是非見させて下さい。」
「有り難うございます。旅に重宝するものばかりです。安心してお買い求め下さい。」
シンビオスの言葉に、店員は嬉しそうに品物を勧め始めた。
「シンビオス様、次は武器屋を覗いてみましょうか?」
「そうだね、ダンタレス。では、また今度伺わせて頂きます。どうも有り難うございました。」
「そうですか。また何かありましたら、どうぞ寄ってみて下さい。」武器屋を覗いてみると、店員が不満をもらしていた。
「和平会議ってのはいつ終わるんだ?ウワサを聞いてると延びそうだしよ。全くいい迷惑だってんだよな。」
「本当よね。」
マスキュリンが同意する。
「私は、和平会議が無事に終わることを祈るだけです。」
グレイスが言葉を続けた。
「そろそろ行こうか。まだ回っていないところもあるし。」
「サラバンドは広いので全部回るのは大変よね。」
「シンビオス様、お疲れではないですか?」
「大丈夫だよ、ダンタレス。これでも僕は父上に鍛えられていたからね。」
「そうでしたね、申し訳ありません。」
町へ出たシンビオス達は、総督区の方へと足を伸ばした。
「何だかサラバンド兵が厳重に警戒しているようですね。」
「大切な和平会議が行われているんだ。仕方がないかもしれないね。」
「どうします?シンビオス様?」
「ベネトレイム様は隅々まで歩き回って情報を集めるようにとおっしゃっておられた。だから、行って話を聞いてみようと思う。」
「分かりました。」
ところがサラバンド兵達は一向を先へ通そうとはしなかった。
「共和国の寄宿舎に戻るつもりでしたら、この総督区の通用路は閉鎖中ですから、どうか商業区の通路をご利用下さい。」
「ここはサラバンドの総督区であるが、宮殿に何かのご用向きですかな?」
「はい。是非お話を伺いたいと思い、参りました。」
「和平会議の会期中である現在・・・両国首脳が会見を求めて参りますが、グラビー様も全てには応えかねます。どうか和平に対する意見交換は、会議の中で行われますように・・・。」
「そうですか。分かりました。」
「この先はサラバンド西の居住区ですが、この先に行くつもりではありませんか?」
「はい。私はサラバンドへ来るのは初めてですので、町を見学して回っているのです。」
「西の居住区は帝国の寄宿に充てられ、共和国の方にとって危険な場所でして、足を踏み入れない方が良いと思います。特にここから寄宿舎は目と鼻の先で、どんな気の荒い将軍と遭遇し・・・争いになるかも知れませんからね。」
「ご忠告、有り難うございます。それでは東地区へ行ってみます。」
「それが良いでしょう。」
シンビオス達は門を開けると、東地区の方へと戻ることにした。
「やはりこの町には不穏な空気が漂っているようですね。」
「一歩、変な所に足を踏み入れたら危ないってことでしょ?こんな所で和平会議だなんて、嫌よね。」
「無事に会議が終わるといいのだけれど。」
「シンビオス様、ここなら安全みたいですよ。気を取り直して人々に話を聞いてみましょう。」
「じゃあ、まずはあのお婆さんに話を聞いてみよう。」
シンビオスは近くにいた老婆に話し掛けた。
「サラバンドが永世中立国になれたのも、ドミネート皇帝が許可したからじゃ。しかし、あの独裁者と恐れられる方がよくもまあ、この国を認めたものじゃ。大陸の7不思議の1つと言われとる。」
「そんな大げさな。」
マスキュリンが呆れたように言った。
「でも確かに皇帝の噂を聞いている限りでは、サラバンドの独立を認めるような方だとは思えませんね。」
ダンタレスは老婆の言葉に肯定的だった。
次に話を聞いたのは、2人の男性だった。
「サラバンドの中央区にある商業施設は、洗練された町並みを持つと評判が高く、近代都市サラバンドの顔になってます。皆さんの寄宿舎の用意された東区と、帝国軍の寄宿用に充てられた西区とは、本来サラバンド国民の居住区なのです。」
「サラバンドは4つの区画から成っていて、東と西にある居住区と、中央の商業区と、南側の宮殿のある総督区から成っている。またサラバンド最大の特徴となるのが蒸気機関で、海上に出られることなんだ。都市が海を進むなんて想像できるかい?」
「それはすごいわね。是非私も体験してみたいわ!」
マスキュリンが目を輝かせて話を聞いている。
その頃シンビオスは、花屋の女性に声を掛けられていた。
「いらっしゃい。お花はいかがです?」
「綺麗な花ですね。」
女性はシンビオスがマスキュリンからもらった花に目を留めた。
「あら、もうお花をお持ちでしたのね。おや・・・そのお花は確か・・・私が今朝摘んできた花ですわ。
「そうだったんですか。素敵な花を有り難うございます。」
「私も喜んでもらえて嬉しいですわ。」
そんな会話を交わしていると、シンビオスがいないことに気付いたマスキュリン達がこちらへ向かって来た。
「シンビオス様、こんなところにお出でだったんですか?心配しましたわ。」
「すまない、グレイス。」
「でもシンビオス様がご無事で良かった。」
こうしてシンビオスと再び合流した彼らは、花屋を後にした。 |