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エゥーゴによって救出されたリョウトは、ヒュッケバインと共に戦艦アーガマに収容された。

「艦長、パーソナルトルーパーの収容を完了した。」

クワトロがヘンケンに報告する。

「ご苦労だった。」

ヘンケンがねぎらいの言葉を掛けると、ブレックスがリョウトの安否を気遣うように言った。

「クワトロ大尉、パイロットは無事なのか?」

「ええ。すまんが君、所属部隊と姓名を教えてくれないか?」

クワトロに視線を向けられ、リョウトはやや緊張した面持ちで答えた。

「マオ・インダストリーのリョウト=ヒカワ。輸送機のパイロットです。」

「若いな・・・その歳でパイロットをやっているとは。」

ブレックスは驚いたように言った。

「マオ・インダストリーと言えばパーソナルトルーパーのメーカーだな。確か、本社は月にあったはずだ。」

どうやらクワトロは、マオ・インダストリーという名に心当たりがあるようであった。

「つまり、君は軍の人間ではなく・・・月から来た民間パイロットというわけか。」

「はい。」

リョウトは、ヘンケンの問に素直に答えた。

「ところで君は何故、あのパーソナルトルーパーに乗っていたのかね?」

ブレックスが、輸送機のパイロットであるはずのリョウトがパーソナルトルーパーに乗っていたことに対する疑問を口にする。

「月からヒュッケバインMK-IIを地球へ輸送していたのです。その途中でさっきの部隊に襲われて・・・。」

「やはり、あのパーソナルトルーパーはヒュッケバインか・・・。」

クワトロが呟いた。

「ヒュッケバイン・・・?その名前は聞いたことがあるな。」

ヘンケンも頷く。

「軍属のパイロットの間ではバニシング・トルーパーとあだ名され、恐れられている機体だ。」

クワトロの意見にブレックスも同意する。

「そう。EOTを本格的に組み込んだパーソナルトルーパーだ。その性能には目を見張るものがある。だが、2年前・・・月の連邦軍テクネチウム基地は、ヒュッケバイン1号機の暴走事故が原因で消滅してしまった・・・。」

「ああ、思い出しました。生存者がわずか3名だったというあの大事故のことですね。」

ヘンケンがようやく思い出したというように頷く。

「そうだ。」

「成る程、それで消滅・・・バニシング・トルーパーというあだ名がついたわけか。それにしても、何故マオ・インダストリーは君にヒュッケバインを輸送させたのだ?それに、この不穏な状況下で地球へ向かわせておきながら護衛もなしで・・・。」

(・・・・・・・・。)

リョウトには答えることができなかった。

自分でも何故ヒュッケバインの輸送などという大役を任されたのか、全く見当がついていなかったからである。

困った様子のリョウトを見て、ブレックスが助け舟を出した。

「ヘンケン艦長。リョウト君は軍人ではないのだぞ。」

「あ、ああ。そうでしたね。すまんな。無理に答える必要はない。」

「すみません、いいですか?さっきの部隊は・・・それにあなた達は一体・・・?」

リョウトはずっと疑問に思っていたことを口にした。

「先程の部隊はティターンズ。ジオン軍の残党狩りを目的とする連邦軍の特殊部隊だ。」

ヘンケンの後にブレックスが言葉を続ける。

「だが、その実態は宇宙居住者の台頭を快く思っていない地球連邦政府や連邦軍上層部・・・つまり、地球至上主義者によって結成された秘密警察なのだ。」

「地球から宇宙を支配する権力者達の尖兵だと思ってくれ。その証拠に、ティターンズのメンバーはほとんどがアースノイドだ。」

ヘンケンの言葉に続いて、リョウトは再び疑問を口にした。

「ティターンズの噂は聞いています。でも、その彼らが何故僕達の輸送機を・・・。」

そのリョウトの質問に答えたのは、1人の女性だった。

「彼らは自分達の勢力を拡大するため、軍備を増強中なの。恐らく、新型機であるヒュッケバインMK-IIを奪うため、輸送機を襲ったんでしょうね・・・。」

(・・・・・・・・・。)

黙り込んだリョウトに向かってブレックスが声を掛けた。

「宇宙ではティターンズに協力する者は少ない。恐らく、君の会社の誰かが情報をリークしたのではないか?」

「そんな・・・じゃあ、僕達はティターンズにあのPTを渡すために輸送機に乗っていた・・・!?」

「いや・・・社長のリン=マオ氏はティターンズのやり方に反感を持っている。それに彼女はそんな命令を出す人物ではない。恐らく、何か他の思惑があったに違いない。」

「・・・でも、現に僕達はティターンズに一方的な攻撃を受けました。」

「それがティターンズのやり方なんだよ。奴らは目的のために手段を選ばない。」

ヘンケンが怒りのこもった表情で言う。

「そして我々は宇宙居住者に圧制を強いる連邦政府やティターンズに対抗して結成された・・・反地球連邦政府組織、エゥーゴだ。」

ブレックスが力強く言った。

「エゥーゴ・・・。」

「最も、ティターンズと戦うことだけが我々の目的ではないがね。」

クワトロは落ち着いたものである。

「さて、君の処遇だが・・・選択は二つある。このまま口を閉ざし月へ戻るか、それとも我々エゥーゴに参加してティターンズと戦うか、だ。」

ブレックスが有無を言わさぬ口調で言う。

「だが、我々は現在作戦行動中だ。どちらにせよ、しばらくは行動を共にしてもらわねばならんが・・・。」

ヘンケンが言葉を続ける。

リョウトは思い切って質問した。

「一つ聞いていいですか・・・?僕の輸送機は・・・他の生存者は・・・?」

しかしヘンケンの返答はリョウトにとっては残酷なものであった。

「調査はしたが・・・シャトル、生存者共に発見出来ていない。恐らくは・・・。」

「・・・・・・!」

その言葉に目を見張るリョウト。

(ぼ、僕は・・・僕一人だけ・・・生き残ってしまったのか・・・。ついさっきまで・・・一緒にいて・・・話をしていたのに・・・。何で、何でこんなことに!)

「・・・大丈夫か?」

俯いてしまったリョウトに向かって、ヘンケンが心配そうに声を掛ける。

(・・・・・・・・・。)

「・・・え、ええ。作戦が終わるまでは・・・あなた方と行動を共にします。その方が・・・いいんですよね・・・?」

リョウトは震える声でようやく返事を返した。

「すまない。そうしてくれると助かる。」

ヘンケンは本当にすまないといった様子であった。

「マオ・インダストリーには私が連絡を取り、事情を説明しよう。そして、次の作戦が終了次第、君を解放する。」

ブレックスは、リョウトを安心させるように優しく言った。

(・・・・・・・・・。)

しかしリョウトから返事は返ってこない。

「では、これよりアーガマはサイド7のグリーンノア2へ向かう!」

ヘンケンが命令を発するとトーレスがすぐに返事を返した。

「了解!」

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