◆18◆
「先程の戦闘ではご苦労だったな、リョウト君。」 「いえ・・・ヒュッケバインMK-IIの性能のお陰で何とかなったんです。」 クワトロが話し掛けると、リョウトは遠慮がちに答えた。 「アストナージ、MK-IIの調査は終わったか?」 クワトロは続いてアスケナージに問い掛けた。 「ヒュッケバインの方は終わりました。ガンダムの方はこれからです。」 「ヒュッケバインを調査していたんですか・・・?」 2人の会話を耳にしたリョウトがクワトロに尋ねた。 「ああ。何かと問題がありそうな機体なのでな。艦の保全を優先させるため、君には申し訳ないが、勝手に調べさせてもらった。」 「・・・いえ。ご迷惑をおかけしているのは僕の方ですから。それで、何か分かったんですか?」 「見た目はヒュッケバインだが、中身はほとんどゲシュペンストMK-IIのパーツを改造したものだな。」 アシュケナージが答えた。 「ゲシュペンストって・・・マオ社が昔に開発したパーソナルトルーパーの第1号機ですよね?」 「そうだ。そして、ゲシュペンストMK-IIはゲシュペンストの量産型だ。しかし、どうしてヒュッケバインMK-IIはMK-Iのパーツを使っていないんだろう?」 「機体の設計を一からやり直しているということか?」 「恐らくは。ヒュッケバインMK-Iは動力源を含め、色々と問題が多かったそうですからね。」 クワトロの問いにアストナージが答えた。 「MK-Iもはどんな動力源が使われていたんですか?」 「ブラックホール・エンジンという、とんでもない動力源が搭載されていたらしい。本当にブラックホールを何らかの形で利用したエンジンかどうか、俺は知らないが・・・そいつの暴走が例の消滅事件の原因だそうだ・・・。」 「じゃあ、MK-IIの動力源も・・・。」 リョウトが不安そうに呟いた。 「いや。MK-IIの動力源はモビルスーツと同じく、核融合エンジンだ。」 「と、いうことは・・・あれは、普通のパーソナルトルーパー・・・?」 「とんでもない。かなり高性能な機体だ。量産も恐らく不可能だろうな。その証拠に、グラビコン・システムとかいう重力制御装置が搭載されている。防御装置のグラビティ・ウォールは、そいつを使用した装置のようだ。」 「グラビコン・システム・・・。もしかして、EOTか?」 クワトロが口を挟んだ。 「ええ。ヒュッケバインMK-IIはEOTを使っている機体だと見て、間違いないですね。現時点の技術力であれほどコンパクトな重力制御装置を造るのは、難しいはずです。」 「アストナージさん、イー・オー・ティーって何のことですか?」 「エクストラ・オーバー・テクノロジーの略さ。その意味は・・・正体不明だが、優秀な技術ってところだな。最近よく聞く言葉だよ。」 「型式番号にRが付く機体には、正体不明の技術が使われているって話は本当か・・・。」 リョウトがそう呟くと、アストナージは苦笑した。 「おいおい、それじゃ連邦軍のモビルスーツは、ほとんどが怪しい機体になるぜ?」 「ま、アムロ=レイのファーストガンダムはハンマー型の武器とかビームジャベリンとか・・・色々と怪しい武器を持つモビルスーツだったがな。何にしてもそんな話、単なる噂だよ、噂。」 (・・・・・・・・・。) 「ま、あの機体は形だけMK-Iに似せて造ってあるものと考えていいだろう。」 「マオ・インダストリーの次期主力量産機の先行試作型・・・と考えるのが妥当か。」 クワトロの言葉を受けてアストナージが続けて言った。 「そうですね。恐らく、連邦軍でトライアルでもする予定だったんでしょう。」 「でも、僕達の行き先は連邦軍ではなく、DCの日本支部でした。」 「!DC・・・ディバイン・クルセイダーズか。」 クワトロが驚いて言うとアストナージが言葉を続けた。 「確か、ロボット工学の権威、ビアン=ゾルダーク博士が設立した研究施設のことですね。」 「ああ。噂ではそこで、EOTを利用した兵器が開発されているという・・・。」 「では、ヒュッケバインMK-IIはDCで何らかの改修を受ける予定だったんでしょうか?」 「・・・DCとマオ社は技術提携をしているという情報もあるからな・・・。リョウト君はDCについて、会社から何か聞いているか?」 「いえ・・・特に。そういう名前の研究所があるということぐらいで・・・。」 「そうか・・・。」 「クワトロ大尉、もう一つ報告することが・・・。 「何だ?」 「あの機体には、脳波コントロールシステムみたいな物も装備されています。」 「脳波コントロールシステム・・・?」 リョウトにとっては聞き慣れない言葉だった。 思わず聞き返す。 「サイコミュか?」 クワトロの疑問を受けて、アストナージが答えた。 「コンセプトは似ていますが、別物です。リョウト、初めてあいつに乗った時、操縦方法の情報が頭の中に入って来たって言ったろ?」 「ええ・・・。」 「恐らく、感応波を使って、情報をダイレクトにお前さんの頭にインプットしたんだろう。」 (だが・・・サイコミュに似た装置なら・・・普通の人間に使いこなせるはずがない。・・・ニュータイプか、強化人間でなければ・・・。) クワトロは言葉にはしなかったものの、頭の中では新たな疑問が沸き起こっていた。 「ただ、疑問なのは・・・機体のデータバンクにあらかじめ、特定の脳波パターンがインプットしてあったことです。ヒュッケバインはその脳波パターンを持っている者でなければ、動かせないようです。」 「それって、どういう意味ですか!?」 アスケナージの言葉を聞いてまさかと思いながらも、リョウトは疑問を口にしていた。 「つまり、MK-IIにはお前さんの脳波パターンが、最初から記録されていたんだ。」 「!!」 リョウトが驚きに目を瞠る。 「・・・俺は事情を知らないし、これはあくまでも憶測なんだが・・・ヒュッケバインMK-IIのパイロットは、初めからお前さんに決まっていたんじゃないのか?」 「そ、そんな・・・」 それは衝撃の事実だった。 (じゃあ、あの時コクピットハッチが開いていたのは・・・偶然ではなく、あらかじめ予定されていたことだったのか!?ひょっとして・・・僕達だけでMK-IIを輸送させていたのも・・・護衛が付いていなかったのも・・・誰かによって仕組まれていた・・・?だとしたら、リオは・・・。・・・・・・・・・。) リョウトの頭の中では疑問ばかりがぐるぐると渦巻いていた。 そしてクワトロも1人、頭の中で考えを巡らせていた。 (・・・何者かに仕組まれていたというわけか・・・。・・・恐らく、DC日本支部にその謎を解く鍵があるのだろうな。) |