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「先程の戦闘ではご苦労だったな、リョウト君。」

「いえ・・・ヒュッケバインMK-IIの性能のお陰で何とかなったんです。」

クワトロが話し掛けると、リョウトは遠慮がちに答えた。

「アストナージ、MK-IIの調査は終わったか?」

クワトロは続いてアスケナージに問い掛けた。

「ヒュッケバインの方は終わりました。ガンダムの方はこれからです。」

「ヒュッケバインを調査していたんですか・・・?」

2人の会話を耳にしたリョウトがクワトロに尋ねた。

「ああ。何かと問題がありそうな機体なのでな。艦の保全を優先させるため、君には申し訳ないが、勝手に調べさせてもらった。」

「・・・いえ。ご迷惑をおかけしているのは僕の方ですから。それで、何か分かったんですか?」

「見た目はヒュッケバインだが、中身はほとんどゲシュペンストMK-IIのパーツを改造したものだな。」

アシュケナージが答えた。

「ゲシュペンストって・・・マオ社が昔に開発したパーソナルトルーパーの第1号機ですよね?」

「そうだ。そして、ゲシュペンストMK-IIはゲシュペンストの量産型だ。しかし、どうしてヒュッケバインMK-IIはMK-Iのパーツを使っていないんだろう?」

「機体の設計を一からやり直しているということか?」

「恐らくは。ヒュッケバインMK-Iは動力源を含め、色々と問題が多かったそうですからね。」

クワトロの問いにアストナージが答えた。

「MK-Iもはどんな動力源が使われていたんですか?」

「ブラックホール・エンジンという、とんでもない動力源が搭載されていたらしい。本当にブラックホールを何らかの形で利用したエンジンかどうか、俺は知らないが・・・そいつの暴走が例の消滅事件の原因だそうだ・・・。」

「じゃあ、MK-IIの動力源も・・・。」

リョウトが不安そうに呟いた。

「いや。MK-IIの動力源はモビルスーツと同じく、核融合エンジンだ。」

「と、いうことは・・・あれは、普通のパーソナルトルーパー・・・?」

「とんでもない。かなり高性能な機体だ。量産も恐らく不可能だろうな。その証拠に、グラビコン・システムとかいう重力制御装置が搭載されている。防御装置のグラビティ・ウォールは、そいつを使用した装置のようだ。」

「グラビコン・システム・・・。もしかして、EOTか?」

クワトロが口を挟んだ。

「ええ。ヒュッケバインMK-IIはEOTを使っている機体だと見て、間違いないですね。現時点の技術力であれほどコンパクトな重力制御装置を造るのは、難しいはずです。」

「アストナージさん、イー・オー・ティーって何のことですか?」

「エクストラ・オーバー・テクノロジーの略さ。その意味は・・・正体不明だが、優秀な技術ってところだな。最近よく聞く言葉だよ。」

「型式番号にRが付く機体には、正体不明の技術が使われているって話は本当か・・・。」

リョウトがそう呟くと、アストナージは苦笑した。

「おいおい、それじゃ連邦軍のモビルスーツは、ほとんどが怪しい機体になるぜ?」

「ま、アムロ=レイのファーストガンダムはハンマー型の武器とかビームジャベリンとか・・・色々と怪しい武器を持つモビルスーツだったがな。何にしてもそんな話、単なる噂だよ、噂。」

(・・・・・・・・・。)

「ま、あの機体は形だけMK-Iに似せて造ってあるものと考えていいだろう。」

「マオ・インダストリーの次期主力量産機の先行試作型・・・と考えるのが妥当か。」

クワトロの言葉を受けてアストナージが続けて言った。

「そうですね。恐らく、連邦軍でトライアルでもする予定だったんでしょう。」

「でも、僕達の行き先は連邦軍ではなく、DCの日本支部でした。」

「!DC・・・ディバイン・クルセイダーズか。」

クワトロが驚いて言うとアストナージが言葉を続けた。

「確か、ロボット工学の権威、ビアン=ゾルダーク博士が設立した研究施設のことですね。」

「ああ。噂ではそこで、EOTを利用した兵器が開発されているという・・・。」

「では、ヒュッケバインMK-IIはDCで何らかの改修を受ける予定だったんでしょうか?」

「・・・DCとマオ社は技術提携をしているという情報もあるからな・・・。リョウト君はDCについて、会社から何か聞いているか?」

「いえ・・・特に。そういう名前の研究所があるということぐらいで・・・。」

「そうか・・・。」

「クワトロ大尉、もう一つ報告することが・・・。

「何だ?」

「あの機体には、脳波コントロールシステムみたいな物も装備されています。」

「脳波コントロールシステム・・・?」

リョウトにとっては聞き慣れない言葉だった。

思わず聞き返す。

「サイコミュか?」

クワトロの疑問を受けて、アストナージが答えた。

「コンセプトは似ていますが、別物です。リョウト、初めてあいつに乗った時、操縦方法の情報が頭の中に入って来たって言ったろ?」

「ええ・・・。」

「恐らく、感応波を使って、情報をダイレクトにお前さんの頭にインプットしたんだろう。」

(だが・・・サイコミュに似た装置なら・・・普通の人間に使いこなせるはずがない。・・・ニュータイプか、強化人間でなければ・・・。)

クワトロは言葉にはしなかったものの、頭の中では新たな疑問が沸き起こっていた。

「ただ、疑問なのは・・・機体のデータバンクにあらかじめ、特定の脳波パターンがインプットしてあったことです。ヒュッケバインはその脳波パターンを持っている者でなければ、動かせないようです。」

「それって、どういう意味ですか!?」

アスケナージの言葉を聞いてまさかと思いながらも、リョウトは疑問を口にしていた。

「つまり、MK-IIにはお前さんの脳波パターンが、最初から記録されていたんだ。」

「!!」

リョウトが驚きに目を瞠る。

「・・・俺は事情を知らないし、これはあくまでも憶測なんだが・・・ヒュッケバインMK-IIのパイロットは、初めからお前さんに決まっていたんじゃないのか?」

「そ、そんな・・・」

それは衝撃の事実だった。

(じゃあ、あの時コクピットハッチが開いていたのは・・・偶然ではなく、あらかじめ予定されていたことだったのか!?ひょっとして・・・僕達だけでMK-IIを輸送させていたのも・・・護衛が付いていなかったのも・・・誰かによって仕組まれていた・・・?だとしたら、リオは・・・。・・・・・・・・・。)

リョウトの頭の中では疑問ばかりがぐるぐると渦巻いていた。

そしてクワトロも1人、頭の中で考えを巡らせていた。

(・・・何者かに仕組まれていたというわけか・・・。・・・恐らく、DC日本支部にその謎を解く鍵があるのだろうな。)

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