上陸
青々とした海と空が果てしなく広がっている。
甲板に上がって来たホームズがリュナンを見つけると声を掛けた。
「リュナン?こんなところにいたのか。どうしたんだ、ぼーっとして?」
「ホームズ・・・・・・。いや・・・・・・、少し潮風に当たっていただけだ。」
「それならいいが、もうすぐウエルト王国だぜ。上陸の準備はできているのか?」
「僕はこのレイピアさえあればいい。部下達もオイゲンに任せておけば大丈夫だろう。」
「ラゼリアの騎士達も大変だな。あんな口うるさいじじいによく我慢ができるものだ。」
波が一際大きな音をたてた。
リュナンは一呼吸置くと言った。
「彼らは分かっているんだ。帝国との戦いでラゼリア騎士団は全滅し、生き残ったのは若い騎士ばかり。オイゲンは僕達を守るために、無理に無理を重ねてきた。その結果、何度も重症を負って今ではもう、剣を振ることさえできない。その無念さが分かっているから、みんな必死で頑張っているんだ。」
「まあな・・・・・・。確かにじじいや俺の親父がいなけりゃ、俺達は皆死んでいただろうよ。年寄り二人に命を救われるとは、全く情けない話だよな。」
「ホームズ。僕達は提督に言われるままにグラナダ砦を脱出したが、本当にこれで良かったのか?提督を犠牲にしてまで生きる価値が、僕達にあるのだろうか・・・・・・。」
波が再び大きな音をたてた。
先程声を掛けた時に何やら考えている風だったのはこれだったのか。
ホームズはリュナンの肩に手を置くと言った。
「そんなことを気にしているのか。だったら安心しろ。ヤツはそう簡単にくたばるような男じゃない。俺が保証してやるぜ。」
「そうだといいが、いくらヴァルス提督でもあの状況下では・・・・・・。」
「リュナン、終わったことをぐちぐちと悔やむなんて、お前らしくないぜ。親父はお前のために無理をしたわけじゃない。自分の意地を貫き通しただけのことだ。いずれ時期が来たら、グラナダを取り戻す。そうなりゃまた、親父とも再会できるだろうよ。」
「そうだな・・・・・・。ありがとう、ホームズ。」
「おいおい、よせよ。親父の生死はともかくとして、俺は結構浮かれているんだぜ。前にも話したと思うが、俺の夢は冒険者になって世界を旅して回ることなんだ。親父から解放されて、ようやくその夢が叶うというわけさ。」
「冒険の旅か・・・・・・。楽しいだろうな。」
「ああ、気の合った仲間達と面白おかしく暮らす。なあ、リュナン。お前も一緒に来ないか。こんなくだらない戦争はもういいだろう。」
しかしリュナンは途端に辛そうな表情になった。
「ホームズ、僕は・・・・・・。」
「ははは、冗談だよ。それが無理だってことくらい、俺にだって分かっているさ。」
「うん・・・・・・。だけど、いつかきっと・・・・・・。」
リュナンがいつ来るとも分からない未来に思いを馳せていると、オイゲンが遠慮がちに声を掛けてきた。
「リュナン様、お話中ですが、ウエルト島が見えてきましたぞ。」
その言葉に、いち早くホームズが反応した。
「おっ、そうだ。悠長に話し込んでいる場合じゃないな。リュナン、とりあえずソラの港に上陸しよう。あそこならウエルト王宮も近いはずだ。」
「分かった。オイゲン、皆に準備を急がせてくれ。」
「はっ、かしこまりました!」
オイゲンは力強く答えると、早速準備に取り掛かった。