10
「随分と張り切ってるなあ。」

「そう言うお前だって気合い入ってるじゃないか。」

チェスターに言われたクレスは負けずにそう言い返した。

「獲物を沢山捕って帰るって、アミィと約束したからな。」

「それじゃ、頑張らないわけにはいかないな。」

「ああ、そういうことだ。」

チェスターは妹を本当に大切にしている。

クレスは妹思いのチェスターのためにも、狩の成果が出ることを願っていた。

南の森に足を踏み入れて間もなく、2人は猪に出会った。

「あっ、猪だ!!」

いち早く見つけたチェスターは叫んだ。

しかしその声に驚いたのか、猪はたちまち逃げ出してしまった。

「追いかけよう!」

「うん。」

チェスターの後にクレスが続いた。

ところがアウル3匹が2人の前に立ちはだかった。

「仕方がないな。倒してから猪を追うぞ。」

「へへっ、甘いな。」

日頃から鍛えているクレスにはこれくらいの敵はどうということはなかった。

「さあ、先を急ごう。」

「そういうわけにはいかないようだぞ。」

クレスが辺りの様子を伺いながら言った。

「今度はバグベア3匹か。」

「行くぞ!」

クレスがバグベアに斬りかかる。

チェスターも弓で的確にバグベアを射った。

「俺が仕留めたんだよな。」

「何を言うか、オレの弓が急所を射抜いたんだぞ。」

「まあ、どっちでもいいか。」

「そうだな。」

「早くしないと猪が完全に遠くへ行ってしまうぞ。」

クレスが走り出すと、チェスターも後を追って来た。

「いた、あそこだ!!」

クレスが叫ぶと、猪はまた逃げ出した。

「逃がすもんか!」

しかしまたもやモンスターが立ちはだかった。

「くそっ、邪魔ばかり現れやがって。」

「獲物は逃がさないぜ。」

モンスターを倒しつつ奥へと進んで行くと、2人は大きな古木に辿り着いた。

樹の前には立て札が立てられており、次のように書かれていた。

『精霊の樹

この樹には精霊が宿っていると言われています

傷つけないように、みなさんのご協力をお願いいたします

                       ユークリッド観光協会』

そこでクレスは猪の姿を見失ったことに気付いた。

「あれ?見失ったか・・・。」

「間違いなく、この辺にいるはずなんだけどな・・・。オレ、近くを探してくるぜ。」

そう言ってチェスターは元来た道を戻り始めた。

「確かに、こっちへ来たと思ったんだけど・・・。」

その時、目の前の精霊の樹が輝き始めた。

「えっ?」

クレスが驚いて樹を見上げると、不思議な女性が姿を現してこう言った。

「樹を・・・汚さないで・・・。」

一瞬古木が巨大な青々と茂る樹へと変貌した。

「こんなことって・・・。」

いや、それは気のせいだったのであろうか?

間もなく目の前の大木は元の古木へと戻ってしまった。

「?・・・。」

クレスが不思議な出来事に呆然としていると、チェスターが戻って来た。

「こっちには、いなかったぞ。そっちはどうだ?」

しかしクレスは返事を返さなかった。

「クレス、どうした?」

「いや・・・。」

チェスターの声にはっと我に返ったクレスは、どこか上の空で答えた。

その時、先程の猪が姿を現したのである。

「!いたぞ!」

チェスターが叫ぶと猪は今度は真っ直ぐにこちらへ向かって来た。

猪はボアと呼ばれるモンスターで、3匹の子どもを連れていた。

2人は何とか4匹を倒すことができた。

「やったあ!大物だな!」

クレスが嬉しそうに言った。

「これだけ捕れれば十分だろう。それじゃあ、村に戻ろうぜ。」

チェスターがクレスに言いかけたその時・・・。

「!」

カンカンカーン カンカンカーン・・・・。

2人の耳に鐘の音が聴こえてきた。

「なっ、何だ!?」

チェスターが耳をすます。

「あれは・・・村の半鐘の音だ!何かあったのか!?」

クレスの胸に不安がよぎった。

「急ごう!!」

チェスターの声を合図に、2人はボアの肉を放り出して村へと戻り始めた。

- 第10話完 -

BackNext

Back