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「き、貴様、浅葱・・・!裏切るのか・・・。」
「どうかお許しを、月影様。」
男の言葉を合図に、小此木流忍術の頭領、赤瀬は月影に向かって刀を振り上げた。
椹木(さわらぎ)流忍術の頭領である月影は若干38歳でありながら、椹木流始まって以来の天才と謳われた男であった。
心身共に見事に鍛え抜かれた非の打ちどころのない彼は、誰からも尊敬と憧れの眼差しで見られていた。
ただ1人、目の前の男を除いては・・・。

「月影様っ!!」
そう叫んで目の前に飛び出した女がいた。
赤瀬の振り下ろした刀はそのまま彼女を切り裂いた。
「綾女・・・様・・・?」
「綾女っ!!」
月影は己を庇って刃に倒れた女を抱きとめた。
まだ頭領の座に就く前から自分と共に修行を積んだ女であった。
初めて会った時より惹かれ合う存在であった2人は、常に共に在った。
「綾女ーーーっっ!」
「月影・・・さ・・ま・・・。ご無事で・・・良かった・・・。私は・・・貴方にお会いできて・・・しあわ・・せ・・・でし・・・。」
綾女は最期まで言葉を紡ぐことなく、息を引き取った。
「あ・・あや・・め・・さ・・・ま・・・。」
浅葱はしばし呆然としていたが、やがて月影に怒りの目を向けた。
「あなたがいけないのです、月影様!私は・・・ずっと以前より・・・綾女様を・・・。」

「母上ーっ!!」
その時、1人の少年が走り寄って来た。
「やめろ、来るな!風狼(ふうろう)!」
月影の制止の声も聞かずに、風狼が飛び込んで来る。
「風狼様・・・あなたにも死んで頂きましょう。」
「浅葱?」
これまで忠実に仕えてきたはずの男の思いもかけない言葉に、一瞬身動きが止まった。
その一瞬を狙い済ましたように、浅葱の持つ刃が風狼を襲った。
「な・・・ぜ・・・?」
風狼は理由を知る間もなく、絶命した。
「風狼!」
叫んだ月影は物言わぬ屍となった妻と息子の元へと駆け寄ろうとしたが、体が思うように動かない。
「無駄ですよ、月影様。しゃべることはできても、体の自由は利かぬはずです。」
「薬・・・か・・・。」
「そうです。全てあなたがいけないのですよ。綾女様と知り合ったのは私の方が先なのに、後から来たあなたが何もかも奪ったのだから。」
「浅葱、お前と私は今までも良きライバルであり、私が頭領となってからは常に私を助けてきてくれたではないか。そのお前が・・・。」
すると浅葱は笑いをこらえたような、それでいて苦渋に満ちたような表情を浮かべた。
口調もそれまでのような目上の者に対するものとは違っている。
「本当にそう思っていたのか?私の前には常にお前がいた。いくら私が努力してもお前には敵わなかった。そればかりか綾女様への思いまで踏みにじって、私から綾女様を奪ってくれた。」
怒りを込めた目で月影を見つめる浅葱の全身は、ぶるぶると震えていた。
やがて落ち着きを取り戻した浅葱の口調は、また元の部下としてのものに戻っていた。
「長くしゃべりすぎてしまいましたね。月影様、今度こそ永遠にお別れです。」
浅葱の刃が、無抵抗の月影に振り下ろされた。

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