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「よくやったな、浅葱。しかしお前も恐ろしい奴よの。」
赤瀬が口の端に笑みを浮かべながら言った。
「それは褒め言葉として受け取っておきましょう。」
そう答えると、浅葱は綾女の死体の側へと近付いて行った。
「綾女様、何故・・・。」
浅葱は綾女の体を抱きしめた。

綾女とはまだ8つの頃に知り合った。
彼女の家柄は椹木一族の中でも上の方であったが、家柄を鼻にかけるようなところなど全く見当たらなかった。
優しく、いつでも周りに笑顔を振りまいていた。
そんな綾女に対して恋心を抱くのに、時間はかからなかった。
しかしそれから2年後、修行で隠れ村の外に出ていた月影が村に戻って来たことによって、彼女は月影に出会ってしまったのだ。
そして出会った瞬間から2人は惹かれ合い、3人で一緒に修行を続けていても浅葱は、どこか2人の間には入ることのできないものを感じ始めていた。
それでも綾女の優しさは変わらなかったので、恋心を抑えつつ綾女の側にいられれば幸せだと考えるようにしていたのだ。
しかし3人が15の年に先代の頭領が急に身罷り、椹木の新頭領が選ばれることになった。
そして選ばれたのが、月影であったのだ。
これまでになく年若い頭領の誕生に意義を唱える者もあったが、月影は持ち前の行動力と統率力とで誰もが納得する長となっていった。
もはや自分に敵う術はなかった。
それでも綾女への思いは変わることなく、その思いは日に日に強くなっていった。
椹木の頭領は自らの優秀な血を引く子孫を残さなければならない。
当然月影にもそれが望まれていた。
18の年になると、周りの側近達がしきりに妻を娶るようにと薦めるようになった。
何人かの候補がいたが、その中に綾女も含まれていた。
お互いに思いを育んでいた2人にとって、一緒になるということは自然なことのようであった。
やがて浅葱の思いをよそに2人は結ばれ、1年後には玉のような男児が生まれた。
浅葱は自らの恋が破れたことを知ったが、それでも以前と変わらずに幼馴染から主君へと変わった月影に仕えているように見えた。
それも全ては、少しでも綾女の側へ身を置いていたいという気持ちを抱いているからに、他ならなかった。
しかし幸せそうな3人の様子を見ていると心が痛んだ。
その後も2人の男児に恵まれ、月影は頭領として一族を見事に率いていった。
浅葱の心の中に生まれた葛藤は次第に大きくなり、そしてとうとう敵の小此木赤瀬と密かに手を結ぶという事態にまで発展していったのである。

椹木の隠れ村が急襲を受けた時、たまたま村を離れていた月影の長男の月狼と三男の疾風は、村に戻る途中嫌な気配を感じていた。
辺りの草が不自然に倒れ、動物達の姿も見えなくなっていた。
不穏な動きを感じた2人は慌てて村へと戻った。
しかしそこで見たのは、あまりにも悲惨な光景であった。
村人はことごとく惨殺されていた。
しかもほとんど無抵抗のようだった。
武器を握っている者はほぼ皆無だったからである。
「これは・・・。」
月狼が思わず呟いた。
「月狼兄者、一体何が起こったんだろう?」
疾風が不安そうな目で兄を見上げた。
「行こう。くれぐれも気配を消すのを忘れるな、疾風。」
「うん。」
2人は館へと急いだ。

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