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館の近くに辿り着いた2人が見たのは、更に衝撃的な光景であった。 見たことのない大男によって斬られた母、そして幼い頃より父の右腕として働いていたはずの浅黄によって、風狼と月影の2人も惨殺されたのである。 大男は隻眼であり、左目に眼帯をしていた。 月狼は、村を襲った敵の様子を見て思い当たるものがあった。 「あれは・・・、小此木の一族だ。頭領の名は確か、赤瀬。」 「母上・・・、父上、風狼兄者・・・。」 疾風は聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。 やがて目にはみるみる涙が溢れ、嗚咽が始まった。 「母上ー、父上ー、風狼兄者ーっ。」 我慢できずに飛び出そうとする。 「待てっ、疾風。今飛び出しても私達2人ではどうしようもない。機会を窺うんだ。」 月狼に引き止められた疾風は、渾身の力を込めて暴れた。 「嫌だっ、離して月狼兄者!くっそー、小此木赤瀬めっ、殺してやるーっっ!!」 「何者だっ!」 その声に気付いた赤瀬が辺りを見回しながら叫んだ。 「椹木の生き残りかもしれません。」 浅葱が言った。 「ちっ、気付かれたか。」 月狼は舌打ちをすると、疾風の体を自分の方に向けた。 「良いか、疾風。このままでは椹木一族は滅びる。私とお前の2人で仇を討つための機会を窺おうと思ったが、それももはや無理のようだ。しかしお前1人だけなら逃げ切れるだろう。どうか、お前が頭領となって村を再興させて欲しい。どこかにきっと生き残りがいるはずだ。お前の力になってくれるだろう。」 「そんなっ、月狼兄者も一緒に!」 「駄目だっ!既に敵に気付かれている。」 「嫌だーっ、うっ。」 突然疾風は力なく崩れ落ちた。 月狼によって鳩尾を打たれたのだ。 弟の体を抱きとめた月狼は、その体をそっと地面に横たえた。 「すまない、疾風。後は頼んだぞ。お前なら、きっと・・・。」 そういい残して月狼は立ち上がった。 「ここだ、小此木赤瀬!私は椹木月狼!一族の仇、受けてみよっ!」 そう叫びながら木陰から飛び出すと、月狼は赤瀬に襲い掛かった。 「危ない、赤瀬様!」 浅葱が素早く赤瀬の前に立ち塞がり、刀で月狼の攻撃を受け止める。 キンッ! 辺りに刃がぶつかり合う音が響いた。 「椹木3兄弟の1人か。」 赤瀬が驚いた様子も見せずに言う。 椹木3兄弟といえば、若年ながらもいずれも腕に長けた者として有名だった。 「椹木3兄弟が長男、月狼!覚悟っ!」 再び斬りかかった月狼の背中に、手裏剣が突き刺さった。 「くそっ、浅葱・・・裏切り者め。」 振り返った月狼は素早く懐の小刀を投げ返した。 「くっ。」 直線を描いて飛んだ刃は、浅葱の左肩を傷つけた。 「下がっておれ、浅葱。」 「はっ。」 赤瀬は月狼を満足そうに眺めた。 「その力、なかなかのものだな。殺すには惜しいが、椹木の者は生かしておくわけにはいかぬ。死んでもらうぞ。」 赤瀬の通常よりも太めの刀は、背中から月狼の心臓を貫いた。 「ぐふっ・・・はや・・・て・・・。」 最後の呟きは風の音に掻き消された。 |
2004年5月21日更新